安全配慮義務とは、労働者の生命および身体を危険から保護するよう配慮すべき義務をいう。この義務を使用者が怠ったために労働者が死亡したり疾病にかかったりした場合には、使用者は、民法415条の債務不履行責任により損害賠償義務を負担するものである。安全配慮義務は、特別な法律関係にある当事者間(陸上自衛隊事件・最3小判昭50.2.25労判222号13頁)や親子会社における親会社と子会社の労働者、または請負関係における元請と下請会社の労働者間においても存在する(三菱重工神戸造船所事件・最1小判平3.4.11労判590号14頁)。
 実務上は、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条・715条・717条など)も可能だが、債務不履行の損害賠償請求を主位的請求とするものが多い。立証責任や消滅時効の点で、不法行為よりも債務不履行の方が原告(労働者)には有利だとされているためである。

 ところで、民法による損害賠償請求は、「故意・過失」「事業の執行中」「土地工作物の瑕疵」や安全配慮義務違反の立証が必要なため、それらの立証が不要な労働基準法や労災保険法における災害補償を使うケースも多いが、民法・労働基準法・労災保険法の関係については、以下のとおりである。
 ①労災保険給付がなされると、労働基準法上の補償責任が免れる(労働基準法84条1項)
 ②労働基準法による災害補償または労災保険給付がなされると、その限度において民法上の損害賠償
  責任が免れる(労働基準法84条2項)。
  ※ただし、労災保険法の年金給付については、一定の調整がある(労災保険法64条)。